【目で見る音作り】MXR M80 BASS D.I.+ 機材レビュー!ディストーションの意外な使い方

今回は、MXR BASS D.I.+(M80)の特性を、音の特性を“目で見る”ことで深く理解していきましょう!

こんにちは、ベースライン研究所所長のたぺです。当研究所(サイト)にお越しいただきありがとうございます!ここを訪れてくれたあなたも既にベースをこよなく愛する研究員。共にかっこいいベースライン作りの研究をしていきましょう!

MXR BASS D.I.+(M80)は、足元で使うペダル型のプリアンプの一種です。

プリアンプと書いているわけではないですが、EQやGAINなどの音作りをアンプの代わりに行うことができるので、プリアンプの一種として解説していきます。

プリアンプというのは、元々はアンプの中にある音色を作る回路ですが、持ち運びができない・買えないなどの理由で、アンプを練習やライブに持っていくことができない場合がありますよね。そんなときに、どこでも同じサウンドを再現できるのがペダル型プリアンプのメリットです。

今回紹介するMXRのプリアンプは、通称“M80”とも呼ばれています。
MXRには、M81 BASS Preampという名前通りのプリアンプも存在しますが、M80の方が知名度が高い印象ですね。調べてみたところ、M81も評判はよく、魅力的です!

M80は、ベースのプリアンプとしては、SANSAMPと二大巨頭として語られることが多い、人気機種のひとつです。(見た目も似ていますしね!)

人気の秘密としては、信頼できるメーカーの中でも安価でコスパが良いことがあると思います。(動画中では、16,000〜17,000円と言っていますが、これは現時点でのサウンドハウス価格です)

これから買ってみたいなと購入を検討されている方や、持っているけど確信を持って使えていないという方へ参考になるようにお話していきます。

音の変化を目で見る!

今回の記事では、M80の特性を耳だけでなく、“目で見る”ことをコンセプトにお送りします。

音だけのレビューだと、再生環境によって変化が分かりづらかったり、個人の聞き取りレベルによって違いを感じづらかったりと、耳だけで判断するのが難しい場合があります。

音の変化とともに、スペクトラムアナライザーを使って、視覚的に音の周波数(低音域・高音域など)がどう変化しているのかを捉えることで、

周波数にどんな変化があると“聞こえ方”がどう変化するのか

という聞き方で楽しんでいただけたらと思います。

M80には、クリーンとディストーションの二系統のチャンネルがありますので、機材の各ツマミの説明だけでなく、その使い方も解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いください!

素の音を見てみよう!

では、まずビフォーアフターのビフォーである”素の音”から見ていきましょう。奏法の違いによっても、少し変わるので、指弾きした場合、スラップした場合で見ていきましょう。

今回の素の音と言っているのは、M80を繋いだまま、OFFにしたときの状態の音という意味です。

どちらの奏法でも、低音域の125Hzくらいが良く出ていることが分かりますね!

ベースは、8K〜16KHzあたりの超高音域はあまり出ません。(ベース本体の個体差や奏法・弾き手による個人差は生じます)

スラップは、奏法的にアタックの音=高音域が出やすく、4KHzあたりまで強く出ています。(このあたりは、プルの音色に関係してくる周波数です)

スペクトラムアナライザーの見方としては、ある程度フレーズを弾ききったあとに残る黄色い点線(ピーク)を、各設定の音の成分として比較していきます。

実験1:フラット設定で比較

では、まずM80をフラットな状態にして、ON・OFFでの音色の差を見て・聞いていきましょう。

“フラットな状態”とは
・EQは12時方向でフラット
・COLORスイッチ・オフ
(不要なツマミは左に回して揃えています)

フラットな状態では、あまり大きな変化はなく、少し整った感じがするという印象でした。

M80最大の特徴はカラースイッチ(COLOR)

M80の最大の特徴とも言えるのが、カラースイッチです。このスイッチを入れるだけでも、音色に大きな変化が起こりますので、まずは聴き比べてみましょう。

実験2:カラースイッチON!

▼デモ 9:13〜

音色がゴリゴリな感じに変わり、波形がは大きく双子山のように分かれました。

・低音域ブースト
・高音域ブースト
・中音域カット

の状態になっており、このサウンドを“ドンシャリ”と呼びます。つまり、

カラースイッチを入れるだけで、太くてゴリゴリなドンシャリサウンドがつくれる

のがM80の大きな特徴というわけです。

低音域(ドン!)と高音域(シャリ!)に双子の山ができるのをドンシャリサウンドと覚えておきましょう。

ベース・ミッド・トレブルのツマミはどう音色が変化する?

ベースは低音域、ミッドは中音域、トレブルは高音域の音量の設定をしていくわけですが、どのあたりの周波数が変化するのかは、メーカーによって異なります。

今回の数値はあくまでも、M80のトーン・コントロールを調節したときに、どんな変化が起こるのかを見るもので、他のエフェクターではトーンの効きは変わってきますのでご注意ください。

アナライザーの見方としては、一般的な数値として

低音域:16〜125Hzあたり
中音域:125〜1K、2Kあたり
高音域:1K、2K以上
を基準に見ていきます。

実験3:ベースのツマミをフルテンに

まずは、ベースのツマミを動かしたときにどんな変化が起こるのか、分かりやすく感じるために、フルテン(MAX)で聞いてみましょう。

アナライザーで見ると、62Hzあたりがブーストされているのが分かりますね。音はモワモワと、頭に膜がかかったような感じがします。

ベースをブーストしすぎると元々出ていた低音域が更に大きくなり、音量がピークに達しやすくなるため、音割れの原因にもなります。(なので、動画ではかなりソフトに弾いています)

低音域は、上手く使えば体に響くような重低音になりますが、出しすぎるとモワモワ感や圧迫感を感じる原因になります。

実験3−2:ベースを全カットすると

では、今度は真逆に全部カットしてみます。

すべてカットしてしまうと、チープなアンプで鳴らしたようなスカスカした厚みのない音になりますね。

ベースの設定は、

モワモワとした感じにならないように出し過ぎず、音の厚みを失うほどにカットし過ぎず

のところで、自分の好みで調節しましょう。

実験4:ミッドをフルテンに

次は、ミッドをフルテンにしてみましょう。

先程のベースフルテンとは違って、不快な感じはせず、音のキャラクターはパキッとした感じ、カラッとした感じに、印象としては主張が強くなった感じがしますね。

ミッドを上げることで、波形の真ん中らへんが持ち上がってきます。こういった中音域に大きな山ができる形の音作りを「かまぼこ」と言います。

中音域ブーストすると、1人で弾いている分には気持ちよくても、他の楽器ともかぶりやすい音域なので、邪魔をしてしまう可能性があります。

中音域は、他の楽器にとってもオイシイ音域なので、バンドで演奏する場合は、

周りの音を聴きながら、調節すること

がポイントです。

実験4−2:ミッドを全カットすると

ボーカルの邪魔をしないように〜と思いすぎて、ミッドをカットしすぎてしまうとどうなるでしょうか?

指弾きでは、主張のない奥まった感じの印象で、抜けの悪い音になりました。

スラップをした場合では、ミッドがカットされてドンシャリ系になったことで、メリハリがついて割といい感じにも聞こえます。

ミッドが音色のキャラクターをつくる

今回の波形を見て、M80のミッドは、500〜1Kの間あたり(800Hzくらい)を中心にブーストされている感じがしますね。

このブーストされる“ミッドの位置”は、プリアンプごとに違っていて、それによって音のキャラクターが大きく変わります。

中には、ミッドで増幅できる周波数を選択できるツマミ(フリーケンシー)がついているものもあります。(MXR M81にはついています)

実験5:トレブルをフルテンに

最後に高音域を調節するトレブルの変化を見ていきましょう。低音楽器と言われるベースでも、高音域の音の成分も含まれています。

指が弦に当たるアタック音や金属音が強調され、音の輪郭がくっきりするのが分かります。アナライザーで見ると4KHzあたりが増えているのが見えますね。

トレブルは上げすぎると耳が痛くなるという、わかりやすい変化があります。いい意味では、きらびやかさを感じさせることができる音域でもあります。

実験5−2:トレブルを全カットすると

上げすぎると耳が痛くなる成分だからと言って、カットしすぎるとどうなるでしょうか?

トレブルをカットすると輪郭がぼやけて音がこもり、抜けが悪くなります。マイルドになった印象もあるので、1人で演奏しているときには良い音に聞こえがちですが、トレブルの下げすぎはバンドでの音抜けが悪くなる原因になります。

スラップで弾いてみても、高音が抜けてこず、スラップらしいダイナミックさが欠けるサウンドです。

耳に痛いほどに上げすぎず、こもらないように下げすぎない
というポイントで、好みの音色に調節していきましょう。

カラースイッチON!トーンはどう調節する?

カラースイッチを押すだけでも、ドンシャリサウンドになるというお話をしましたが、ではカラースイッチをONにしたときのベース・ミッド・トレブルの設定はどうなるでしょうか?

カラースイッチを押すだけで、すでにドンシャリ=低音域・高音域が強調されているので、ベース・トレブルは微調整くらいで良い感じですね。

カラーON時は、ミッドの調節がメインになってくると思います。すでにドンシャリなので、ミッドを上げても、ドンシャリ感は残ったままマイルドになる感じですね。500Hzあたりでくぼんでいる山の傾斜が少しなだらかになるのが見て取れます。

超個性的な裏の顔!?ディストーションチャンネルの音作り

さて、ここまでで前半が終了です。今までは、クリーンチャンネルの説明でしたので、ここからが歪みの音づくり、ディストーションチャンネルについて解説していきます。

▼ディストーションの音作り解説(17:54〜

ディストーションチャンネルでの音作りは、右側の4つのツマミとEQ(ベース・ミッド・トレブル)を使います。クリーンのボリュームとカラースイッチはここでは機能しません。

ディストーションチャンネル側のボリュームを上げることで音量の調節を行いますが、歪みのサウンドは、GAIN(ゲイン)とBLEND(ブレンド)で作っていきます。ゲインとブレンドが下がった状態だとクリーンの音を作ることも可能です。

ここでのディストーションチャンネルのサウンドの特徴として覚えておきたいのが、

カラースイッチ同様、ディストーションチャンネルはクリーンの状態でドンシャリになっている

ということです。

歪みの作り方

M80では、クリーンの音と歪んだ音の割合をブレンドで調節していきます。

12時の方向で、クリーン音:歪み音=1:1となります。

たぺ’s アイディア
“ドンシャリスイッチ”

ここで、私の考えたM80の使い方アイディアの一例を紹介しましょう。

カラースイッチオフのクリーン・トーンとディストーションチャンネルの切り替えで“ドンシャリスイッチ”として使うというアイディアです。

EQでミドルをブーストしておくことで、クリーントーンではかまぼこサウンド、ディストーションチャンネルで、スラップのバキバキ感を出すドンシャリサウンドに切り替えることができます。

曲中で音色を変えたい場合に、カラースイッチは足で切り替えできないので、ディストーションスイッチを“ドンシャリスイッチ”として使うという方法です。

ディストーションチャンネルだからといって、歪ませて使うのではなく、音色を変えるという目的でも使うことができるのです!

単純にカラースイッチONのクリーンとエフェクターOFFするだけでも、ドンシャリ切り替えはできますが、かまぼこの方がMXRを通らない音になってしまうので、ニュアンスは変わってしまいます。

GAIN(ゲイン)で歪み調節

ゲインの上げると歪みが深くなり、より邪悪な感じのするサウンドになっていきますね。

TRIGGER(トリガー)の調節

ディストーションチャンネルをONにして、ゲインを上げた状態にすると、「サーッ」という音(ノイズ)が出てきます。この「サー」音(ヒスノイズと言います)をカットするのが、GATE(ゲート)スイッチとTRIGGER(トリガー)です。

ゲートをオンにすると音が鳴っていないときに黄色いランプが点灯し、ノイズゲートが作動します。

ゲートというのは、このノイズゲートを意味しており、ヒスノイズを検知して音量を下げてくれる機能です。

トリガーで、ノイズゲートの感度(かかり具合)を調節します。右に回せば感度が増し、ヒスノイズをより強力に除去してくれます。

ノイズを除去するための単体の”ノイズゲート”というエフェクターもあります。

ゲートはノイズの音量を下げてくれるので、かかりが強すぎると小さな音(ソフトに弾いた音やサスティンなど)カットされてしまいます。

またゲートをONにすることで、多少の音色の変化は伴います。

ディストーションを使うような場面というのは、曲が盛り上がっている場面だということが多いので、ディストーションON時にブレイクがあったり、拍手を煽ったり、無音になるようなシーンがなければ、ゲートは使わなくてもいいかなという感じです。

BLEND(ブレンド)の調節

ディストーションをかけすぎると、ベースの低音感は弱まります。アナライザーで見ても、低音域が削れていることがわかりますね。

歪みをかけつつ、ベースの低音感を保つためにブレンドを調節していきます。

ゲインがMAXの状態では、9時くらいの方向でやっとベースらしい低音感のあるサウンドになりました。

歪みの粗さ・かかり具合をゲインで調節し、ベースらしい低音感をどのくらい出していくかをブレンドで調節

していきます。

どんなときに歪みが使える?

音を歪ませることによって、こんな効果を得ることができます。

  • 歪んだ音で邪悪な感じが出る
  • High(高音域)が出て、目立つ
  • コンプ感(音の均一感)
  • サスティン(持続音)が伸びる

ディストーションを踏むことで、良くも悪くも派手なサウンドになるので、ごまかしがきくとも言えますが、ベースソロで速弾きなど音を埋め尽くすように弾くときなんかにもってこいなサウンドになりますね。

クリーンのチャンネルとディストーションチャンネルで

かなり振り幅のある個性的なプリアンプ

だなというのが、個人的な感想ですね(笑)

M80ユーザーに聞いてみた!実践的な使い方とは?

ここからは、Twitterなどで聞いてみたM80の効果的な使い方についてご紹介します(24:36〜)。

例1:カラーON+ミッドフルテン

例2:うっすらディストーション
ブレンド9時+ゲイン9時

禍々しい感じがない程よい感じのディストーションサウンドです。

ドンシャリサウンドににオーラを纏ったような、クリーンで出すきらびやかさとは別の音色で加えているような印象のサウンドです。シャリッとした感じが加わり、歯切れよい感じが気持ちいいです。(聞き取りでは、結構人気の使い方な印象でした!)

バンドで演奏するときには、ベースの輪郭がしっかり聞こえてきて、かつアンサンブルとして混ざりがよいことが人気の秘訣のようです。

MXR M80の使い方まとめ

M80の使い方をざっくりとまとめると……

  • クリーンのプリアンプとして使える
  • カラーの音色が気に入るかどうかがM80を購入するかどうかの決め手
  • ディストーションチャンネルもカラーと似たサウンド
  • がっつり歪ませない”うっすらディストーション”も実用的
  • 極悪サウンドなディストーションとして、ソロで音色を変えたいときにもGOOD!

伴奏からソロまで1台で音作りができてしまう!

とても便利かつハイクオリティなエフェクターです。

パッシブ・ベースのように電池を使わないベースにはEQがついていないので、足元で音色の調整としてこのM80を使っている、という声も多く見られました。(私は、アクティブタイプのベース使っていますが、足元で音作りしています)

ベース入門セットとしても、ジャズベとM80のセットはオススメです。(最初に買ったエフェクターだという声もよく聞く定番機です)

かと言って、初心者向けというわけでもなく、初心者から上級者まで愛されているM80。ぜひ、気になった方は、使ってみてくださいね!

おまけ:演奏環境について

ここは興味のある方のみ、どうぞ!

今回は、アクティブタイプの5弦ベースを使って、解説しました。

オーディオインターフェースのファンタム電源を使って、M80へと電力供給していますが、普通に9V電池やパワーサプライでも使うことができます。(ファンタム電源は、オーディオインターフェースの他、ミキサーやアンプについていることがあります)

この電源供給を使うためには、エフェクター左側の下に挿しているXLR(キャノン)ケーブルが必要です。

スペクトラムアナライザーとは

スペクトラムアナライザー(通称スペアナ)とは、16Hzから16KHzまで、低音域から高音域までの周波数の数値を測ることができることができるものです。

ベースの音を出すと、音の成分をグラフで表示してくれます。

ベースと言うと”低音楽器”なので、低音だけが出ていると思われがちですが、主成分として低音域は多いだけで、中音域・高音域までの音も1音に含まれています。

音程として取れる周波数を“基音”、それ以外の周波数を“倍音”と言います。この倍音の違いによって、音色のキャラクターが変わるということを今回はスペクトラムアナライザーを使って、体感していきましょう。

シールドとXLRケーブルどちらを使う?

M80には、通常ベースからアンプへとつなぐ“シールド”を差すアウトプットと、“XLRケーブル”を差すアウトプットの2つのアウトプットがついています。

この2つの何が違うのかというと、構造や信号を送る方法の違いがあり、“XLRケーブル”の方がノイズに強い構造となっています。

シールドは“アンバランス伝送”、XLRケーブルは“バランス伝送”という方式で、信号を送ります。
“XLRケーブル”は、ノイズに強い構造であることから、長い距離をケーブルで繋がなければならないときに有効です。ケーブルを経過する距離が長くなればなるほど音質が劣化する原因になります。
ライブハウスなどで、後ろの方にあるPA卓にケーブルで繋ぐときは、距離が10m、20mと遠くなるので、ノイズに強いバランス伝送(XLRケーブル)を選択します。

Bass d.i.の“DI”って何?

M80にもSANSAMPにも“DI”という表記がありますが、これは“ダイレクトボックス”を指す言葉です。

DIは、アンバランスな信号(ベースから送られる信号)をバランスに変換する機能のことを言います。

DI付きのプリアンプは増えていますが、ライブ時にここから直接PAに送るかどうかはライブハウスの環境次第ですね。(PAさんに相談しましょう!)

ライブのときだけでなく、レコーディングのときやアンプにも使うことができます。(つなぐ側が対応していれば、の話ですが)

シールドよりもメリットが大きいように見えますが、数メートルであれば、音質劣化はそれほど差がありません。

シールドで繋いだ場合とXLRケーブルで繋いだ場合とで、音色を聴き比べるとそれほど差がないことがわかります。XLRケーブルの方が音が出すぎないので、今回はコチラを使用しました。

ちなみに、実際に使用する場合は、どちらか用途に合わせたアウトプットだけを使えばOKです!(2つ繋ぐ必要はありません)